[考案]本症例の患者は急性腎炎寛解後、根治されないまま、治療を中断したため、1年後に再発してしまった。この時既に慢性腎炎に移行していた。幸い腎機能はまだそれほどの障害がなく、腎不全に至っていなかった。漢方の弁証ではこれは脾陽虚弱による水湿不運であるため、健脾利湿、温陽利水の治療を行った。
処方の中では五苓散は主として温陽利水をし、補助として黄耆、党参、生苡仁、山薬などで健脾、理気、利湿、消腫をする。そして湯剤と丸薬の併用でより確実な効果を上げることができたのである。
結 語
急性腎炎は漢方医学では風水の範疇に属する。宣肺・きょ風・利水は漢方の風水治療の伝統的な方法である。漢方は急性腎炎の治療において、効果が早く、且つ短期間で根本的に治すことができるという特徴を持っている。急性期に根本的な治療を行えば、通常慢性腎炎に移行することは少ない。
漢方医学は慢性腎炎の原因が脾、腎、主に腎にあると認識している。病機としては病気の長期化で腎の元陰、元陽が消耗し、腎陽及び脾陽が虚弱になる。これにより、脾腎陽気による水湿運化ができなくなり、水湿が体内に滞留し、浮腫が起こされるのである。
慢性腎炎は主として本虚であり、扶正は基本的な治療法である。しかし一方多くの誘因と他の要素もあり、「標実」でもあるので、邪の駆除も軽視できない。治療は性急になってはならない。尿蛋白が現れたり消えたりしても、病状が安定し、顔色もよくなり、風邪や咽部の痛みが有効に治まり、体質が段々丈夫になりさえすれば、病状が好転し、尿蛋白も段々正常になっていくことを意味する。漢方薬による尿蛋白の治療は温腎健脾で患者体質を改善する過程で行うもので、効果が確実で再発も少ない。
(『東洋医学』1998年5月号より)
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